新しい事業ドメインに挑戦することの難しさ 第2回

グループ子会社にありがちな状況は、実は独立した企業でも同じようなことが起きがちです。内販対外販という構図を、既存ドメインでの事業運営対新しいドメインの事業運営と置き換えてみるとその様相はかなり似ています。それまで事業を支えてきた既存ドメインは、組織としての経験知も蓄積され、ある程度固定化した顧客があり、技術的にも習熟度が高く、効率的に処理できます。逆に新ドメインは、組織的経験知も少なく、新たな顧客を獲得する必要があり、技術陣も習熟度が低く、まずは学習し経験を積んでいく時間が必要になります。

外販進出にしても新規ドメインへの挑戦にしても、トップやマネジメント層のリーダーシップが重要と指摘されます。それは当然のことですが、中期経営計画に盛り込んだり、スローガン的な方針を示したり、目標管理に明記したりするだけでは現場はあまり変わりません。

一番手ごわいのは、組織の持つ「慣性」です。事業の立ち上げを支えてきた既存ドメインや内販事業は、その事業のメインストリームとなっています。その事業は、たとえ環境変化によって勢いが衰えてきているとしても、たちまちになくなるわけではありません。その組織が成長する原動力となってきた事業から得られた経験知は、同時期に成長してきた現在のマネジメント層がもつメンタルモデルの基盤となっています。そのマネジメント層が次の世代を育成していくとき、どうしても組織で持っているこれまでの成功体験から得られた価値観をベースにマネジメントしていきます。そうしたメンタルモデルのもとでは、組織全体として新しいドメイン構築や外販挑戦に対して、意図しないブレーキを組織自体がかけてしまいます。しかも、そのことに組織全体が気づかないケースもまま見受けられます。

たとえば、これまでの既存ドメインと同じ感覚で新規ドメイン開拓にも売上や利益の目標値が設定されます。営業戦略の立て方や営業活動のKPIなども従来と同じ基準で設定されます。それは新しいチャレンジを求められている現場社員にとっては大きなリスクとなります。既存ドメインと同様のオペレーションが求められるなかで、新規ドメインの営業も同様の売上必達のプレッシャーがかけられます。営業自身も難しさを感じながらも、その無理な目標値を認めざるを得ない場合もあるでしょう。

しかし、実際は新しいお客さまを見つけ、期中に売上を上げることは困難が伴います。既存の固定客であれば、訪問活動もやりやすいでしょう。しかし新しくお客さまを発見していくためには、ただ訪問回数をこなしていくだけでは効果はありません。そもそも新しいお客さまに訪問することすら、組織として経験知を持っていないことも多いです。新しく経験することばかりで、なかなか芳しい成果は挙がりません。人はわからないことにはなかなか労力はかけられません。技術も、やってみなければわからないことは責任をもって提案すらできません。

期末が近くなり、目の前の売上や利益が上がっていないことが追及されると、それまで慣れ親しんできたやり方でとりあえず売上だけは上げていくという方に傾くのはある意味必然と言えます。売上や利益が計画通りに達成できないと、社内からは新規事業への投資見直しや自分たちが稼いでいるキャッシュを浪費しているといった論調がでることもしばしばです。新しいチャレンジを行っている社員自身もそう感じてしまい、現場のモチベーションはどんどん下がっていきます。(第3回に続く)

(文責:天野緑郎)

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