新しい事業ドメインに挑戦することの難しさ 第1回
一説によると、ある事業領域の繁栄する時間は30年程度ということです。
企業が存続するためには、環境変化に合わせて事業を刷新していく必要があります。
新規事業とまでは言わなくても、社会の変化に合わせた新しい事業ドメインへの挑戦や営業スタイルの変革が求められることは確かなようです。
しかし、言葉でいうほどそれは簡単ではないようです。その一因に組織が持った成功体験が阻害要因になるといわれます。そのメカニズムを組織風土という観点で考えてみたいと思います。
例えば、グループ内取引を中心としていた子会社が外販に進出する場合を考えてみたいと思います。
中核の親企業があり、その企業を中心としたグループ子会社は、もともと親会社の機能を部分的に切り出した機能別子会社であるケースが多いと思います。IT企業であれば、契約したシステムを構築するためのSE専門会社や出来上がったシステムを保守・メンテナンスする専門会社といった例です。
そうした会社は、その専門分野の技術や経験には長けているので、ある程度事業が軌道に乗ると、その資産を活かして外販にでようとします。親会社もグループ内でキャッシュを回すだけよりは、外からキャッシュを獲得してくることが望ましいのでそれを推奨したり、グループの中期経営計画に盛り込んだりします。
しかし、外販に出ようとしても障害があります。
まず顧客を新規に開拓していく組織的取組みがそもそも弱い、あるいは全くないことが多いです。
それまでは、親会社が獲得した案件が任される、あるいは機能別子会社として親会社の戦略や計画、予算に従って製品開発や事業展開を行ってきています。キャッシュをもたらす案件を自らの力で生み出すという行動はそこには必要ありませんでした。極端な場合は、営業組織すらなく、技術者として第一線を退いた人が、経験もないまま営業担当に回されるといったケースもあります。「営業」という名前はついていますが、実態は案件処理の社内調整や業務処理を行っている場合も少なくありません。そうした企業の場合、営業組織として顧客開拓やマーケティングの経験知を持っていません。組織を牽引する経営層やマネージャーも同様です。具体的に外販にむけてマーケティング戦略を立案したり、それを営業組織に落とし込んで予算計画や実行計画を作ったり、それを実践してPDCAを回すという経験や知識を組織的に持っていません。
さらに、案件を実装する技術やエンジニアのリソースにも難があります。
外販案件とグループ内取引が輻輳した場合に、どうしてもグループ内取引が優先されがちになります。もともと親会社の機能別子会社としてリソースを準備しているので、親会社の要請に応えることは大前提となっています。親会社との取引額は大きく、安定しています。技術者も、親会社に在籍していたもと出向者であるなど、親会社との人的つながりも強かったりします。経営上層部の判断も親会社優先になりがちになります。そうすると、苦労してやっとつかんだ外販案件も納品どころか提案すらできないといった状況に陥ります。いわゆる「はしごはずし」状態です。外販部門のモチベーションダウンは目に見えています。経営層が、なんとしても外販を立ち上げていくという思いの強さが試される場面でもあります。ここでしっかりとバランスをとったリーダーシップが取れないと外販部門は立ち行きません。(第2回に続く)
(文責:天野緑郎)
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