新しい事業ドメインに挑戦することの難しさ 第3回

よくPDCAサイクルを回すといいます。それ自体はとても実りの多い考え方です。注意が必要なのは、「計画」を立てるためには、それまでやってきた経験知がベースになっているという点です。既存ドメインの事業推進(オペレーション)であれば、経験知もあり、固定客もあるので「計画」も立てられます。またこの場合の「計画」は、やり遂げる見通しをもってたてられる計画です。よほど大きな与件の変化がない限り、達成することが求められる「計画」です。しかし、新しいことに挑戦する場合は、そもそも従来の知見では「計画」をたてることが難しいということをよく理解しておく必要があります。同じ「計画」でも全く新しい知見を積み重ねていくことを含んだ「計画」であり、ある意味、失敗もあり得る「計画」であるはずです。その意味で「仮説」といってもいいかもしれません。

経営層やマネジメント層は、新しい挑戦には失敗はつきものであることを強く意識する必要があります。慣れ親しんだ既存の事業ドメインや親会社からの案件受注ではないので、新しいやり方を挑戦し、そこから学び、自分たちのスタイルを築く時間が必要です。そのためには、意味ある失敗を速く数多く体験し、組織で共有し、自社のやり方を改めて開発することが必要です。限りある経営リソースを、どこに傾斜配分して次の事業ドメイン構築に備えるのか、その間、既存ドメインや内販の役割はどうあるべきなのかを明確に定義づけ、社内に示す必要があります。時間軸を明示することも必要です。この時、過去の成功体験を否定しすぎることにも注意が必要です。過去の成功体験は、現に今の事業を創り、支えてきたことは事実です。そして環境変化で衰退しつつあるといってもやはり現実的にキャッシュを生み出しています。その事業の過去の成功体験自体に問題があるわけではありません。それに寄りかかりたくなる「慣性」が問題です。これまでのやり方をアンラーニングして客観的に見つめ直し、新たな挑戦への意欲を湧き起こすことが重要です。しかしそれを怠り、無意識に阻害してしまう組織の無自覚が問題なのです。

大切なことは、内販vs.外販、既存ドメインvs.新規ドメインといった対立軸を超えて、リーダーが全社が共鳴できるビジョンを示し、相互にリスペクトしつつ、組織全体で新しい姿へのトランスファーを強力に推進していくことです。既存ドメインや内販は価値を下げることなく、オペレーションを一段と効率化していきながらしっかり原資を生み出して新しい投資を支えていきます。一方、新規ドメインや外販はなるべく短時間に数多くのトライアルを実施していきながら、組織学習のサイクルを数多く回し、成功事例・失敗事例を積み上げて新しい事業ドメインを確立していきます。それぞれに役割があり、それぞれが両輪として必要であり、相互の力によって全体に貢献しているという意識の浸透が重要となります。そのためには、経営層やマネジメント層、リーダーが全社を巻き込みながら、新規の重要性と挑戦の意義、そして既存の役割と貢献について、しっかり腹落ちするまで対話を行うことが重要だと考えます。そうした全社最適的な対話と腹落ち感なしに、目標設定やスローガンだけでは組織はいつまでたっても挑戦をすることはできないように思います。

(文責:天野緑郎)

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